子育ても、介護も、家庭の中でそれを主に担う人が、自分で考え、自分で行動し、反省し、改善し、挑戦し……とがんばるケースが多いことは、否めない事実だと思います。
ダブルケアとなると、まさに、この状況が、ダブルになるわけです。なかには、トリプルという方々もいらっしゃると思います。
子育ても介護も、気分やちょっとした体調不良で、したりしなかったりというわけにはなかなかいきません。それが必要な状況のあいだはがんばっている方々がほとんどだと思います。
いつのまにか心も体もつかれている
まじめで、やさしくて、誠実で、期待に応えることを旨としてがんばる人は、ダブルケアの状況になってもやはりがんばってしまうと思います。
でも、私自身、8年半のダブルケアを経験して改めて思うことは、100パーセント以上の状態でがんばりつづけることは、やはりできないということです。
毎日を、なんとか無事に終えていかなければとがんばるうちに、いつのまにか、歯を食いしばり、呼吸が浅くなり、眉間のあたりに力が入って考え詰めているのです。
これに寝不足が加わると、見た目にも顔色が悪くなってきます。
食事もきちんととる時間がなくなると、介護者は、手軽なパンやお茶漬けなどの炭水化物でとりあえず空腹を満たしておくような食事が多くなり、忙しいわりには体重が増加してきたりします。
買い物も介護と子どもの予定の合間をぬってバタバタ
特に、目が離せない症状の方を介護している方は、日常の買い物をするのも駆け足でバタバタとすませ、家のことを気にしながら帰ってくるということがほとんどではないでしょうか。
最近は、宅配での買い物もしやすくはなってきていますが、やはり、なにかしらたりないものは日々出てきます。季節の変わり目には、子どもたちの洋服などを買うのもゆっくりとはいきません。我が家でも、よく、「よし、2時に出かけて4時に帰ってくるよ!」と時間を決めて子どもの買い物に出かけたりしました。
帰宅後は、すぐにケアが待っていますし、子どもたちの夕食の準備もあります。
ショッピングモールやスーパーの中を親子で走るように移動して、表現はおかしいですが、それはそれはきびきびと買い物をしていました。
店員さんの笑顔が心を潤してくれた
そんな親子の様子は、今考えると、店員さんの目にも少々異様に映ることがあったかもしれません。店に勢いよく入ってきて、走るように品定めをしてレジに駆け込んでくるようなお客は、小さいお店ほど目立っていたにちがいありません。
しかし、思い返してみても、店員さんは皆さん笑顔で対応してくれました。
店員なのだから訓練されているし、「あたりまえ」ともいえるのかもしれません。でも、いつも切羽詰まった気持ちで過ごしている私の心は、その笑顔やおだやかな口調、包みを渡してくれる時の丁寧なしぐさなど、店員さんの所作や言葉にずいぶんと温められました。
ときには、知ってか知らずか気遣う言葉をかけてくれたり、なにげない世間話でレジを打つ間に笑わしてくれたりする店員さんもいて、張りつめている気持ちが、一瞬、ほっとして、深く深呼吸をするような心持ちになったこともありました。
1日24時間、介護のスケジュールに合わせて過ごしていると、介護者は、自分の休息や楽しみのために時間を使うことは非常に難しくなります。そんな毎日のなかで、丁寧に自分に対応してもらう一瞬が、笑顔の店員さんに会ったときでした。
おおげさに聞こえるかもしれませんが、なにか、私も一人の人間として、丁寧に接してもらうことを思い出すような感覚があったのです。
ダブルケアのさなかにいる方々の多くが、自分のことはずっと後ろの後回しにして、求められるケアに必死で対応し続けているのではないでしょうか。
できればしてあげたい子どものケアも、どちらかというと介護の後回しになり、焦る気持ちのなかで、時間を融通することに苦心している方がほとんどだと思います。
そして、自分のことを少し大切にすることさえ、忘れがちになっているのではないでしょうか。
だから、店員さんの笑顔にありがとうと言いたい
今、4月、新しく小売業界に就職したり、アルバイトを始めたりしている学生さんもいらっしゃるでしょう。もしかすると、仕事を始めるにあたっての研修では、「笑顔、笑顔!」と言われて、少々、うんざり気味の方もいるかもしれません。
また、「無理してつくる営業用の笑顔なんて」といった疑問が湧いてきてしまっている方もいるかもしれません。
でも、笑顔は笑顔です。
あなたの笑顔によって、少しでも心が安まる人は必ずいるのです。
だから、あなたの笑顔と丁寧な所作は、無意味では決してありません。
この場を借りて、お礼を言います。
ありがとう
最近は、どこにお買い物に行っても、私も店員さんに「ありがとう」を言います。
それは、いいお買い物ができたことへの感謝でもあり、私のダブルケア生活があちこちの店員さんの笑顔に支えられていたことへのお礼でもあるのです。